旅とSIMフリースマホ
タイの首都バンコクから南へ約200km離れたサメット島で、持参したスマホが水没して故障した。完全防水ケースに入れて、綺麗な景色をスマホに残すことを信じて疑わなかった。使用前に試さなかった自分が悪いのか。ケースは渡航前にインターネットショップで購入した。ケースの表面を見ると、hong kongの文字。きっと雑多な路上マーケットで安く仕入れて販売しているのだろう。商品の性質上、悪質と感じた。
そしてスマホの無い旅が始まった。
不安?不便?
そんな事はなかった。
無駄に見ていたツイッターやインスタグラム、フェイスブックなどのSNSが遮断された。島で本当の意味でのスローライフが、自分の意思とは関係なく始まった。
僕にとって始めての海外はタイだった。スマホはいわゆるキャリアスマホだったから、現地のSIMを購入できなかった。ネットに繋げるのは、フリーWi-Fiが飛んでいるカフェやレストラン、または寝床にしている宿に限られた。ポータブルWi-Fiという手段も頭になかった。そして重たいガイドブックも家に置いてきた。旅はどこかそれでいいと思っていた。きっと冒険がしたかったんだと思う。
その後旅とスマホの関係は変化していく。SIMフリースマホを手に入れてからだった。着いた空港でSIMを購入し、現地のインターネットに繋げる。渡航した土地の情報を調べるのは当然のこと、土地勘のない長距離移動のバスの中での位置情報はとても役立った。そして理解できない現地の言葉や、不得意な英語は翻訳アプリが解決してくれた。便利だなと率直に感じた。今ではスマホの無い旅は考えられないようになった。
話しは変わるが、僕の好きな旅行作家のひとりに、下川裕治さんがいる。その下川さんが新刊の発売を記念して開いた講演会があった。いつもは足を運ぶ講演会だったが、本の内容がシニア向けだったため、躊躇した。その後、講演会の様子を自身のブログで綴った記事を見た。内容はスマホの話しだった。
来場した40人を超える人たちに「携帯ではなく、スマホを使っている人」という問いかけに、9割ほどの人が手を挙げた。続いて、「SIMフリーのスマホの人」と訊くと、3人だけになってしまったそうだ。下川さんは言う。おそらく、これが、日本の割合なのだろう。日本人の多くは、SIMフリーの外側でスマホを使っていると。
そして海外旅行のハードルを低くしているのが、SIMフリーのスマホとLCCという気がすると下川さんは言う。さらに日本人の海外旅行が盛りあがらないのは、多くの人がSIMフリーの世界を知らないからのような気もすると話す。
頷ける内容だった。
今回の旅では、日程が偶然重なった数人の日本人の旅人と会った。彼らはすべてキャリアスマホを使用していた。だが、インターネットは必要不可欠という考え。空港でポータブルWi-Fiを借りていた。これがシニアではない、旅を趣味とする日本人の現実だと理解できた。なぜキャリアにこだわるのか。明確な答えは皆無だった。
スマホが水没してから数日。結局電源は入らず、カメラレンズの向こう側に、小さな水滴が顔を覗かせていた。終わったなと思った。サメット島をあとにして、パタヤなどを巡ろうと思っていたが、バンコクへ戻ることにした。理由はスマホの購入だった。向かった先はバンコク屈指の巨大ショッピングモール、MBK。上階のスマホ売場へ向かうと、目当てのスマホを日本より1万円以上も安く手に入れた。無駄な出費のはずが、ラッキーだと錯覚した。
本来予定していたルートを変更してまで手に入れたスマホだったが、旅がスマホに振り回されていないかと疑った。なぜ、そこまでスマホにこだわるのか。ツイッター?インスタグラム?フェイスブック?LINE?いや、違う。理由は日本で始めたばかりのAirbnb(民泊)だった。行動が限られる島では特段必要に感じなかったが、そこを離れた途端にスマホの重要性が身に沁みてきたのだ。それはゲストの予約や質問に迅速に対応しなければならない。持参したパソコンでは話にならなかった。
一度知ってしまうと、元には戻れないSIMフリースマホの快適さ。旅をより豊かに彩ってくれることは間違いなかったが、迅速な対応を気にする旅は、本来の旅の姿と違うような気もする。旅とスマホの間で揺れる自分がいた。
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