下川裕治さん新刊『僕はLCCでこんなふうに旅をする』を読んで、僕もLCCでこんなふうに旅をしたことを書こう

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旅行作家の下川裕治さんの新刊『僕はLCCでこんなふうに旅をする』が、朝日文庫より11月に発売された。いつもの週末シリーズとはちょっと違って、今作は「LCCで旅をするということは、こんなんだよ」という、下川さんの作品には珍しく、ガイド的要素を含んだ作品になっている。

僕は何度か下川さんの作品レビューを書かせてもらっているが、今回はレビューというより、自分の旅を作品に重ね合わせながら読んだ作品となった。それは自分がLCCの旅ばかりをしてきたからだ。

思い起こせば、初めて海外の風を感じた土地はタイだった。利用した航空会社はタイ国際航空。いわゆるタイのレガシーキャリアと呼ばれる航空会社だ。機内はLCCとは違って座席は広く、映画や音楽が楽しめるエンターテイメントも充実していた。そしてタイ料理の機内食が喉を通る度に、まだ見ぬタイに気持ちが高まっていった記憶が残っている。

それから数ヶ月後、僕は次の旅に出た。旅先は台湾、ベトナム、タイの3カ国周遊旅。航空券はすべて片道で、LCCのエアアジアだった。決済は自らエアアジアのウェブサイトで済ませた。

なぜLCCを利用したのか?
当時を振り返り、自問自答をしてみる。

答えは単純だった。
運賃が安いからだった。

正確な運賃は覚えていないが、3カ国周って、こんなんでいいの?という運賃だった記憶が残っている。それ以降、すっかりLCCの虜になってしまい、結局レガシーキャリアを利用したのは、初めて海外の地を踏んだタイ国際航空以来、経験が無い。

そのおかげで、LCCに慣れた旅をしているつもりだったが、そこには思わぬ落とし穴があった経験もした。痛い目にもあった。不快な思いもした。

LCCとは、こういうことか……。
 
自ら経験した、苦い思い出が蘇る。

 

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今日も徹夜でLCC 

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LCCのつらいところは、運航時間が早朝や深夜になる場合が多いことだ。たとえ国内線でも苦行を強いられる。P39より
 
LCCは早朝や深夜便を選択すると、破格の運賃で渡航できるケースが多い。それがセール価格で購入できると、腰を抜かすレベルだ。下川さんは作品のなかで、ジェットスタージャパンの早朝便を利用して沖縄へ行った記述があるが、僕も同じ経験をした。
 
運賃は往復で1万円ちょっと。セールで取得した。搭乗は成田を6時に発つGK301便だった。東京駅から深夜バスに乗り、成田空港第三ターミナルにあるフードコートの椅子で横になった。チェックインが始まるのは4時頃。当然熟睡できるはずもなく、ほぼ徹夜で機上の人となった。
 
何もここまでして沖縄へ……と一瞬ぼやいたが、久々感じる沖縄の風に眠気が吹き飛んだ。しかし、東京駅からの深夜バスに落とし穴があった。
 

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利用したのは京成バス。東京駅と成田空港を約1時間で結んでくれる。その運賃は、事前予約で900円、未予約で1,000円というお手頃な料金だった。しかし、東京駅の始発から午前5時発の深夜早朝便の未予約にかぎり、倍の2,000円という料金設定だったのだ。僕はこのことをウェブ画面からすっかり見落としており、未予約で東京駅へ向かってしまったのだ。支払いをする運転手の前で固まってしまったのは記憶に新しい。
 
LCCにかぎった話しではないが、深夜早朝便を利用する時、それまでの過ごし方を考えなくてはならない。空港で前乗りをする場合、その移動方法と運賃、予約方法、割増料金まで計算をする。僕はこれらの事を、LCCから学んだような気がする。
 

ペラペラの搭乗券からいまは……

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実はこのウェブチェックインをめぐってアジアでは混乱が起きた。本来は利用者が自分で印刷した搭乗券があり、預ける荷物がなかったら、チェックインカウンターに向かうことなく、直接、搭乗口へ向かえばよかった。しかしこれができる空港とできない空港が混在しているのだ。P78より
 
頷ける内容だった。僕はこれで冷や汗をかいた記憶がある。冒頭で記述した台湾、ベトナム、タイの周遊旅。預ける荷物はなく、チェックインはすべて事前にウェブで済ませた。リュックひとつの、いわゆるバックパッカースタイルの旅だった。
 

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僕自身、海外の旅は2度目だったが、国内は仕事も含めてそれなりに飛行機に乗った。その時はLCCではなく、ANAやJALのレガシーキャリアだった。当時の記憶を辿ると、ペーパーレス化が進んでいたような気がする。それに比べてLCCはペーパーレス化が進んでいなかった。念のため……とプリントアウトした搭乗券を手に飛行場へ。
 
台湾の桃園空港では手荷物検査、出国審査共にプリントアウトした搭乗券で済ませた。しかしいざ搭乗の時点でスタッフに止められてしまったのだ。不得意な英語で何度かやり取りをしたのち、その場で発券してもらって事なきを得たが、ベトナムのタンソンニャット空港では手荷物検査の時点でチェックインカウンターへ帰されてしまった。その経験からタイのドンムアン空港では不安になり、プリントアウトした搭乗券を片手に、手荷物検査の入口でタイ人の空港スタッフに聞いてみた。すると「これがボーディングパスだ!ボーディングパスと書いてあるだろ!」と笑顔で返された。結局プリントアウトした搭乗券のまま機上の人になれたが、搭乗口まで不安な気持ちは拭えなかった。
 
東南アジアでは、マレーシアのクアラルンプール国際空港やバンコクのドーンムアン空港では、そのまま搭乗口に向かえばいい。しかし空港によっては、プリントアウトした搭乗券をチェックインカウンターに出し、その空港の搭乗券を受けとらないと搭乗できないところがある。P78より
 
未熟な個人の海外旅に堂々と向き合えたのは、それなりに経験した国内旅がそうさせた。だが、国内線のようにいかないのが、海外のLCCだった。日本のレガシーキャリアのように、スマホの画面で搭乗できると思っていたLCC。ウェブ本来の便利さと時代に追いついていないと感じた瞬間だった。
 
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機内食の有料化

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悩むのはLCCである。機内食は有料だから、どうしてももち込みを考えてしまう。ここでは日系と非日系の違いが出てくる。日本のLCCは、ほぼ飲食物のもち込みはOKだと思っていい。バニラエアはアルコール類を手荷物としてもち込んでもいいが、それを機内で飲むことはできないというルールがある。後述するが、海外のLCCは、このもち込みについてかなりうるさい。乗客も外国人が多いと、ほとんどの人がなにももち込まない。そのなかで、もち込んだものを飲んだり食べたりするのはかなり気が引けることは事実だ。P89より
 
機内に持ち込んだ飲食物を飲み食いすること。これも経験の浅いLCCの前で悩んだことだった。事前にウェブで調べてみるものの、機内持込みに関する詳しい記述はあるが、それを飲み食いしていいのか、確信を得るような記述がないのだ。
 
LCCは機内食にかかる費用を、航空券代から切り離した。その分を航空券代から差し引いたわけだ。P86より

つまりLCCで機内食を食べたければ、有料で購入するしかない。それが分かっているから、持ち込んだ飲食物を機内で飲み食いするのに気が引けてしまうのだ。

過去にこんなことがあった。航空会社はバニラエア。台北を17時30分に発ち、成田へ向かうJW108便だった。機体が安定飛行になるころ、僕の隣に座る乗客が鞄から弁当を取り出し、堂々と食べ始めた。弁当はいかにも旨そうな台湾の駅弁だった。羨ましい……。時間は夕刻。ちょうど食事時でもあったが、東京までのフライト時間は短い。このくらいの路線では、有料で飲食物を購入する人は多くないから、その光景は目立っていた。そこへキャビンアテンダントが通りかかる。あぁ、注意されるんだろうな……。他人事ながら見つめていたが、キャビンアテンダントは涼しい顔をして通り過ぎていった。

あとで分かったことだが、バニラエア、ジェットスタージャパン、ピーチの日系LCCは飲食物の持込みも飲み食いもOKだと分かった。下川さんの記述にある通りだった。では非日系はどうか。これは僕の経験上だが、ペットボトルの飲料はギリギリOKな気がする。皆持ち込んでいるし、注意をされているところを見たことはない。スナック菓子やガム、飴の類はどうだろう。これもOKのような気がするが、特にスナック菓子は申し訳なさそうに食べればOKのような気がするのは、気のせいだろうか。弁当、カップ麺、これはさすがにNGだろう。僕もやったことはないし、見たこともない。

機内食を提供しない……それはLCCの不文律のようなものに映っていた。(省略) しかしノックエアは簡単にそれを破ってしまった。なにもサービスしないというLCCの基本理論を崩していったのだ。P145より

その後乗ったタイのノックエアでは軽食が、韓国のジンエアーでは弁当スタイルの軽食が出た。飲食が提供されないLCCと思い込んでいたから、軽食でもすごく喜んだ記憶がある。これを下川さんはLCCとレガシーキャリアの区別が難しい時代になったと言う。確かにノックエアは預ける荷物の重量が15キロまで無料で、一般的に7キロまでが無料の認識だから、これが本当にLCCなのかと首を傾げたくなる。LCCは日系だけではなく、非日系も経験すると、その違いが分かってくる。僕なりの体験だった。
 

実は難しいインターネット予約

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LCCのインターネット予約には、アドバイスしてくれる人がいない。すべて自分で判断していかなくてはならない。それは旅慣れていない人にとっては、なかなか難しいことなのだ。P173より
 
僕は調子に乗っていた。手慣れたインターネットでサクっと航空券を予約する。店舗を構えた旅行代理店を一度も利用したことがなく、セールで洋服より安い片道航空券を購入しては得意気になっていた。そこに思わぬ落とし穴があった。
 
成田からバニラエアで台北へ向かったことがあった。チェックインカウンターへ向かい、プリントアウトした予約表とパスポートを差し出すと、スタッフに指摘された。
 
「名前がパスポートと一致しません」
 
一瞬耳を疑った。

差し出した予約表をよく見ると、ローマ字で印刷された名前のスペルが一文字間違っているではないか。自分の名前を間違えるなんて、何で単純なミスをしたのだろう。僕は航空券を購入する時間は夜が多い。きっと酒でも飲みながら、ろくに確認もせずに購入してしまったのだろう。

「名前の訂正に5,000円かかります」

スタッフの表情は涼しげで、冷たい印象すら受けた。せっかく安く手に入れた航空券も、名前の訂正で高くついてしまった。ここで引き返すわけにもいかず、財布から抜き出したクレジットカードをそっとカウンターの上に置いた。これがインターネット予約で航空券を購入するということか……。身をもって知ったことだった。

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また、こんなこともあった。航空会社はエアアジア。タイのドンムアンからマレーシアのクアラルンプールを経由して、羽田へ向かう便だった。片道航空券だったが、ドンムアンから羽田までの一括購入。クアラルンプールで羽田行きに乗り換えればいいだけだった。しかしドンムアンで1時間近く出発が遅れてしまった。そのおかげで羽田行きには搭乗できず、クアラルンプールで一泊を余儀なくされた。エアアジアのクアラルンプールから羽田へは1日1便だからだ。

クアラルンプールの空港のMCTは60分である。しかし何回かクアラルンプール空港で乗り換えを経験した人はこういう。
「60分は怖いですね。飛行機は1時間近く遅れることもある。30分程度の遅れは珍しくない。乗り換えの場合は、いったん荷物を受け取って、マレーシアに入国して、再びチェックインをして出国手続きをするわけでしょ。最低でも2時間じゃないかな。私は3時間以上開けるようにしてるけど」P190より

僕はその時、乗り継ぎに2時間を要していたが、そのMCTが60分を切ったので乗り継ぎができなかったのだ。空港内を走った挙句、スタッフにもう締め切ったと言われたときの感覚は未だに忘れていない。

このような時、LCCは振替に応じてくれないと思っている人もいるが、きちんと別便に振り替えてくれる。僕の場合、1日1便しかなかったため、翌日の便になっただけだった。しかしこれも一括で購入していたためで、ドンムアン→クアラルンプール、クアラルンプール→羽田と別々に購入していたら自己責任で、振替には応じてくれない。また、別々の航空会社でも同様だ。この辺は下川さんの作品に詳しく記述してある。
 

まとめ 

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下川さんの今回の作品は、LCCを利用した旅ばかりをしている人は共感できる作品であり、レガシーキャリアばかり利用している人は、読まない方がいいかもしれない。と、少し冗談めいた感想を言ってみるが、これを裏付けるような発言が、先日開催された下川さんの講演会であった。
 
LCCが日本の空を飛びはじめて10年。LCCといって分からない人は少ないと思う。だが未だレガシーキャリアしか乗ったことがない人も多いのが事実。その理由はマイルを貯めるためや機内食、エンターテイメントの充実、シート間の広さ、機内サービスの充実、遅延やキャンセル時の対応と様々だ。そして「LCCってボロい機体だから安いんでしょ。怖いよ」と思っている人も事実。その実態は下川さんの作品を読めば理解できる内容となっている。
 
安さに飛びつき、辛い深夜早朝のフライトはもう辞めようと思ったこともあった。成田や羽田はもちろん、ドンムアン、クアラルンプール、仁川、色んな空港の床やベンチで寝た。台北の桃園は夏でも寒く、持参したホッカイロを全身に貼って、震えながら寝たこともあった。それでもLCCを辞められないのは運賃だけではなく、片道航空券を駆使して、各国を乗り継いだ結果、こんな安く収まったという充実感なのかもしれない。また、その旅のルートを考える楽しさもある。
 
僕はこれからもきっとLCCの旅を続けることだろう。そんなことを思った今回の下川さんの作品だった。
 

今回読んだ作品

タイトル:僕はLCCでこんなふうに旅をする
著者:下川裕治
出版社:朝日新聞出版
定価:本体700円+税

 

僕はLCCでこんなふうに旅をする (朝日文庫)

僕はLCCでこんなふうに旅をする (朝日文庫)

 

 

下川さんの他の作品 

シニアひとり旅: バックパッカーのすすめ アジア編 (平凡社新書)

シニアひとり旅: バックパッカーのすすめ アジア編 (平凡社新書)

 

 

東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編 (双葉文庫)

東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編 (双葉文庫)

 

 

週末ちょっとディープなタイ旅 (朝日文庫)

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