下川裕治氏の新刊が発売!『「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦』のレビューとトークショーの話し

旅行作家の下川裕治氏の新刊『「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦』が発売された。その発売を記念して西荻窪にある「旅の本屋のまど」にてスライド&トークショーが開催されたので足を運んでみたのだが、それと同時期に下川氏のブログを運営されている「ナムジャイブログ」にて新刊を抽選で3名にプレゼントという企画があった。応募の条件はブログを開設している人で、新刊レビューをブログにて記事にすることだった。僕は「どうせ当たらないだろう」と思って応募したのだが、なんと抽選に当たってしまったのだ。

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皆さんはネットショッピングで買物をした経験はあるだろうか。レビューを書けば送料無料というやつだ。商品が手元に届き少々使用をすればキーボードに向かう両手の運びは軽やかだ。なにしろ商品の料金を払っているという消費者の心理がそうさせるのだろう。しかし、今回は勝手が少々違う。本をタダで頂く代わりにレビューを書くという、少々気が重くなるというかプレッシャーを感じるものがある。「タダより高いものはない」とは誰が言ったか。そんな心境を覚えつつ、新刊レビューに加え、トークショーで語る下川氏の生の声を伝えながら記事を進めたいと思う。
 

「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦 (新潮文庫)

「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦 (新潮文庫)

 

 

この新刊の見所はタイトル通り「裏国境」つまりマイナーな国境を越える東南アジア一周の旅なのだが、訪れる各国やその土地の歴史や背景もしっかり描写されており勉強にもなる作品だ。それに加え還暦を迎えた下川氏が行く先々で巻き込まれるトラブルには思わず吹き出してしまう。
 
構成は5章に分かれており、第1章ではタイからカンボジア。第2章ではカンボジアからベトナムへメコンデルタの船下り。第3章はベトナムを南から北へ横断し、第4章ではベトナムからラオスへ。最後の第5章では難所と言われるミャンマー、そしてタイへ入国という具合だ。ここでは分かり易く順を追ってレビューを進めてみたい。 
 
第1章:洪水のタイからアンコールワットへ
バンコクからシェムリアップへの国境越えといえば多くの旅人がポイペトを通過するのがメジャーだが、ここは下川氏のマイナー国境ということで北バスターミナルから東北約330キロのスリンという街まで出る。そこから国境の街チョンチョムを越える。ポイペトを通過した人の話しで度々出るのがビザオフィスでのぼったくり手数料だ。そのぼったくり手数料がマイナー国境では一体どうなのか。というところがひとつの見所である。

そしてスリンの洪水はというと下川氏が訪れたときはまだ冠水していなかったが、カンボジアに入るとトレンサップ湖から溢れた水で冠水しているというオチが待っていた。そこに流れる川に下半身をつけ酒盛りをする地元民たち。日本人と東南アジアの人々との洪水というものへの認識の違いを下川氏目線で解説してくれている。

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◇トークショーより:国境はどちらかの国が駄目と言ったら通れない。誰かが通れても自分が通れるか分からない。最近は何でも分かって旅がしやすくなったが、国境の周りだけは何が起こるか分からない旅の聖域と語る下川氏

 
第2章:メコンデルタ下り
まず冒頭でアンコールワットとその周辺に7ページも費やしているのが特徴。それはシェムリアップに訪れる韓国人と中国人の話し。韓国資本が入り込み地元にお金を落さない韓国人。また、地元カンボジア人のアンコール遺跡群に対する思いを伝える。

その後はプノンペンまでのバス移動があり、メコン川を船で下ることになる。しかしその前に宿だ。プノンペン市街の脇を流れるトンレサップ川の岸辺の街で一軒の宿に出会うのだが、その宿で見た光景からタイにおける日本人と不良外国人の宿事情の話しが面白い。タイからカンボジアへ。そこにはドラッグとビザが密接に関係しているらしい。

そして本題のメコンデルタ。イミグレーションはどこか。そしてベトナムとの国境はメコン川のどこなのか。これはとても興味深い内容であった。

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◇トークショーより:韓国系のタクシーに乗るとボラれることが多いシェムリアップ。乗るならカンボジア系だと語る下川氏。そんな下川氏からシェムリアップの良心的なタクシー会社の電話番号を会場で披露するサプライズ!


第3章:南から北へ、ベトナム縦断

舞台はホーチミンから始まる。ホーチミンへ訪れた人なら誰もが分かるタクシー事情とおびただしい数のバイクをはじめとする交通事情。あるいは、タンソンニャット空港から152番のバスに乗りベンタン市場まで5,000ドンの話しなど情景が浮かんで懐かしい。

そしてベトナム縦断はとても辛い寝台バスの話しがメインとなるが、途中立ち寄るドライブインでの食事こそが、ベトナムで本当の家庭料理が楽しめるとのこと。

さらにベトナムと言えばコーヒー。旅の途中でコーヒー畑に立ち寄る話しは読んでいても一服落ち着きどころだ。そしてもうひとつベトナムと言えばベトナム戦争と社会主義。歴史的背景もしっかり描写されており、単なる裏国境の旅行記ではないところが垣間見える。


第4章:雨降り止まぬラオス山中

トークショーで「この裏国境を真似てみるならココがおすすめ」と語っていた下川氏。それがベトナム・ディエンビエンフーからラオス・ムアンクアだ。このイミグレーションではちょっとしたハプニングがあるのだが、作中ではあっさりと流れている。それもこの後体験するムアンクアからノーンキャウまでの船体験が過酷だったためか。どんな過酷な体験かは読んでのお楽しみがいいだろう。

ノーンキャウを出ると舞台は世界遺産の街・ルアンパバーンへ。ここでは隣国・中国との関係の話しが出てくるが、そこには中国の経済進出の話しにページを割いている。このあたりの話は行ったことのない僕にはとても興味深かった。

そして舞台はホンサーの街から国境の街、ムアンガンへ。再び裏国境越えだ。下川氏いわく今回の国境越えで一番不安を抱えたルートだったそうで、情報があまりにも少なかったそうだ。

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トークショーより:ルアンパバーンなどのメコン川東側エリアは快適で、バックパッカーに今一番おすすめの場所とのこと

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第5章:最後の難所、ミャンマー

この旅のクライマックスは最終章にやってくる。というのもタイからミャンマーへ二度入国することになるのだが、ひとつはタイのメーサイからミャンマーのタチレクの国境だ。この国境はビザなしで500バーツを支払いパスポートを預ければ、ミャンマー側の街まで日帰りで入れることは旅人の間では有名な話し。また、特別の許可書をとれば、その先のチャイントンまで行くことができる。しかし、最近国境事情が変わったそうだ。それはミャンマー側の街までという制限が外されたとのこと。これには衝撃を受けた。なぜなら僕はこのタチレクへの日帰り入国を今年体験しに行こうと決めているからだ。これが本当ならばビザを用意しなければならないし、その反面ミャンマーで数泊も考えられる。しかしそこにはタイ政府のビザランに対する強化も考慮しなくてはならない。それとも日帰り入国の制度も継続して存在するのか。もう少し情報収集しなくてはならないが、いくら情報を得たところで行った当日に国境事情が変わることも考えられる。それが下川氏が言うところの「行ってみなきゃ分からない」ということなのだろう。

話しは戻るが下川氏は結局タチレクの先の街チャイントンまで行くが、そこから先には進めずバンコクに戻ることになる。何があったかここでは割愛させていただく。

その後ミャンマーへの入国をメーソートからミャワディへと成功。しかし、その道中またトラブルに巻き込まれることになる。それは乗っていたバスが横転する事故に巻き込まれたのだ。これはトークショーにて動画が披露されたのだが、同行している阿部氏のカメラマン魂とそのカメラにフレームインしてくる下川氏には思わず吹き出してしまった。人の事故を見て吹き出すとは不謹慎だが、この辺りの話しは作品にもしっかり描写されているので本を読んで楽しんでいただきたい。

ヤンゴンで一泊した下川氏はダウェイまで移動し、メルギー諸島を船で移動する。そしてコータウンから温泉の街ラノーンへ。再びタイに入国というルートを辿っていき「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦の旅を終えることになる。

 

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トークショーより:ダウェイからコータウンへ。メルギー諸島の船旅はリゾート開発されていない今がおすすめとのこと


本を読んだ感想

約300ページにわたるこの作品は僕自身も一緒に旅を楽しんでいる感覚で、あっという間に読み終えた。しかし、旅そのものはあっという間に終えていないのは作品を読めば分かる。道中はトラブルにも見舞われ、陸路でのバス移動など還暦を迎える下川氏の旅の様子を想像しながら読むと楽しく感じ、また時にはしんどく感じたものだ。また、下川氏でも裏国境には不安がつきまとうらしい。それは情報の少なさからくるものだが、下川氏は国境に詳しい人脈により解決し旅を進めていく場面がある。

 
僕は限られた時間のなかでバックパックスタイルの旅を楽しんでいる。裏国境東南アジア一周の旅は現状真似することの出来ない旅だが、もし体験するとなると僕には国境に詳しい人脈はまだ無に等しいのでこれから作るか、ネットや本などの情報を得ながら裏国境の旅をするしかないだろう。それでもこの作品を読んでひとつ体験したいルートができた。それはベトナムのハノイからディエンビエンフー。そこからラオスのムアンクアへの裏国境越えを体験してみたくなった。さらにそこからルアンパバーンへ向かうルートはとても魅力的に感じる。幸いハノイもルアンパバーンもまだ訪れたことが無いので、近いうちに実現したい。
 
ただそこは裏国境。下川氏が言うところの「行ってみなきゃ分からない」ということがつきまとう。行って駄目なら来た道を戻らなくてはならず、考えただけでも辛い思いだ。まして、時間が限られた旅人には余計に不安がつきまとうことだろう。
 
国境。裏も表もそこは地続き。必ず隣国というものが存在するわけで、そこには経済、就労などが絡みお互いの国を行き来している地元民がいる。そして各国の歴史的背景、戦争、宗教、食の文化などの描写もしっかり描かれており勉強になる思いと同時に、旅を続ければ避けては通れない事柄であろう。
 
僕は東南アジアが好きだ。その東南アジアを題材にした下川氏の作品。しかも「裏国境」とくればプレゼントで頂かなくても購入したのは明らか。一度読み終えた僕は、二度目の読書に時間を費やしている。今度は東南アジアの地図を広げながら。

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旅の本屋のまど
住所:東京都杉並区西荻窪北3-12-10 司ビル1F
下川裕治 スライド&トークショー 2015年5月15日開催
参加費:900円 

タイ、アジア、沖縄と旅を続ける旅行作家-下川裕治のブログ:たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

 

「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦 (新潮文庫)

「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦 (新潮文庫)

 

 

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