暑さを求める日本人と、雪を求めるタイ人とのすれ違い
2015.12.29
台湾の台北からタイ・バンコクへ移動してきた。雨が降り肌寒かった台北に比べて、バンコクは快晴でとても暑い。この暑さが東南アジア、タイの魅力のひとつだと思っている。しかし、安さをとって体力を捨てる日程のLCCの旅には少々身体が堪えたようで、昨夜は夕食を摂ると早々に就寝してしまった。
僕はバンコクで行きたい観光名所はもう特にない。それでもなぜか足が向いてしまうのがバンコクだった。今後のバンコクへの旅の目的は、沈没気分でいいと思っている。旅というよりは生活の場所を移しただけとも言える。人は日頃たまに違う環境に身を置いてあげる行為は大切だと思っていて、それが例え自宅の近所のカフェでもいいのだが、僕の場合はバンコクであり、東南アジアなのかもしれない。
ドンムアン空港へ降り立つと真っ先に向かった場所は、チットロムにあるヒンズー教の祠、「エラワン廟」だった。まだ記憶に新しい今年の8月に起きた爆弾テロ事件の現場だ。この事件が起きた翌日、僕のもとにタイ人から一件のメールがきた。そのタイ人とは昨年ラオスのバンビエンで知り合ったタイ人グループのなかの一人だった。
メールの内容はこうだった。
「何か困っていることがあったら助けになるよ」
その日僕は東京にいて、旅はしていない。僕がバンコクで事件に巻き込まれる確率より、バンコクに住んでいるタイ人の方が事件に巻き込まれる確率は高いはずだ。心を打たれた。
◇現在のエラワン廟。20人以上の死者がでた現場は厳しい警備の目があるものの、日常を取り戻していた
それから数ヶ月、再びタイ人からメールがきた。それは今年の年末年始に日本へ旅することになったという内容だった。日程は東京を中心に、shikarawagoへ行くと書かれている。おそらくshirakawago(白川郷)の間違いなのは一目見て分かった。タイ人には自国で見られない雪が好きらしく、札幌と世界遺産に登録されている白川郷は人気のようだ。
東京滞在では浅草に宿泊するから一緒に遊ぼうと連絡がきたが、僕はタイのバンコクにいる。雪を求めて日本へ来たタイ人からメールを貰った日本人は、暑さを求めてタイへ来た。なんというすれ違いか。
ないものを求める心理が人間には少なからずある。隣の芝は青く見えるというやつだ。これが僻みや憎しみになると全くもって不毛なことと感じるが、憧れて旅をすることになるのはいいことだ。だから旅は素晴らしい。
そのタイ人のメールには続きが書かれていた。
「今度タイにはいつ来る?」
ラオスで過ごした楽しい印象が残っているのは、どうやらお互いの共通点みたいで有難い話しだ。しかし、悩ましい問題がひとつある。それは英会話だ。ラオスでは酒に酔った勢いで、適当な英語とリアクションで誤魔化せた。メールは文章だからどうにかなる。それが実際会うとなると不安が募る思いなのだ。言葉が出なければジョークひとつも言えないつまらない男になってしまう。これは僕にとって死活問題なのである。
タイへはおそらく来春に再び来る。そのときまで英会話を少しでも上達しなければならない。英語を喋れない日本人は今日もバンコクを歩いている。
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