神戸新開地の大衆酒場でせんべろディープはしご酒

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僕は東京に住んでいるから神戸というと、どこか横浜と紐付けるようなところがある。海からの風を感じながら港町を歩けば街のシンボルタワーと赤レンガの建物があり、高台を歩けば洋館が点在する。そして元町・中華街。僕が知っている横浜の街と神戸は共通点が多く、いずれもお洒落な港町という認識があった。

しかし今回は男のひとり旅。それらの場所はサクっと通り過ぎて行ってみたい街があった。それは「新開地」だった。新開地は兵庫県神戸市兵庫区の南に位置しており、戦前から昭和30年代半ばにおいて、神戸の中心的市街地だった。その歴史ある新開地の街には、ステテコと雪駄で歩く粋なおじさんの姿も昔は見受けられた話しを耳にする。そんな街を想像すると、かなり年齢層が高く、ディープで敷居が高い街が浮かんでくる。行ってみたいが、及び腰になる自分もいる。勇気を出していざ足を運んでみたら……。今回はそんなお話しです。
 

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新開地の街

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三宮駅から阪神、または阪急に乗ること7分で新開地駅に着いた。地下のホームから地上に出ると、綺麗なアーケードが新開地の街の中心を走っていた。もうちょっとディープな街を想像していた身にとって、少し拍子抜けしてしまった。新開地の街はどうやら1995年に発生した阪神大震災によって再生されたようだった。


◇神戸三宮駅と新開地駅の位置関係

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そんな新開地の街を歩くとギャンブルの街ということが分かった。アーケード街には数多くのパチンコ店が軒を連ね、ボートレースの場外投票所が存在している。こりゃ相当ガラの悪そうな街だなと覚悟を決めたのはこの時だった。

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ただし良い側面もあった。それは日本のギャンブル街には、大衆的な安くて美味しい食事処が集まっていることだった。それらは街を歩けばすぐに分かった。震災を乗り越えた昭和から続く大衆酒場の姿を見ては、どこかホッとしたところがあった。

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新開地はドヤ街の側面もあるが、震災によってドヤ街と呼べるほどの街は残っていない。それでも1泊1,100円、テレビが付いて1,550円の簡易宿泊所を発見した。さすがにココに泊まる気にはなれなかったが、現代のゲストハウスの原点はドヤ街の簡易宿泊所と同じなのである。FreeWi-Fi付で1泊1,550円!みたいな。

神戸アートビレッジセンター

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その簡易宿泊所とボートレースの場外投票所のすぐ側に、神戸アートビレッジセンターなる建物があった。家族連れやカップルの姿を一切見かけない街の光景に似合わないアートな建物。興味が湧いた僕は入ってみることにした。

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館内に入ると「自分たちが住むまちを見る」をテーマに、平面作家の山内庸資(やまうち ようすけ)さんと兵庫大開小学校の子どもたちのプロジェクトによる展示会が開催されていた。作品を描いたのは5・6年生で、彼らの視点で描かれた新開地の街並みをギャラリーに浮かび上がらせている。

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◇枠に収まりきれないほどダイナミックに描かれた新開地のアーケード街

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◇安価なメニューが並ぶ立ち食い蕎麦屋の様子。力強さが伝わってきました

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僕が秋に訪れた熱海もそうだったが、近年街をどうやって再生、表現、伝えるかということが盛んに感じる。それはワークショップだったり、食を通したイベントだったり、今回のような新開地をフィールドワークして、その中で見つけた建物を描いて展示する。非常に良いものが見れたと満足をした。

NEW OPEN AREA 2016
山内庸資✕兵庫大開小学校5・6年生

展示期間:12月10日〜25日
時間:11:00〜20:00
休館:火曜日
料金:無料

場所:神戸アートビレッジセンター
住所:神戸市兵庫区新開地5-3-14

惣菜が絶品な「吉美屋世界長」

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新開地のアートを楽しむと、今回のメインである酒場放浪の時間だ。僕は街を歩き目をつけていた大衆酒場があった。それは「世界長」と書かれた大きな暖簾が目を引く「吉美屋」だ。実は世界長の暖簾を掲げている店は新開地の街で他にも見かけたが、暖簾分けなのか、姉妹店なのか分からなかったが、間口の広いこの店がとても気になった。

だが、暖簾の隙間から見える光景は60代以上と思われる人ばかり。想像はできていたものの、少し入るのをためらってしまった。酒場に入るのにこんなにも考えたのは久しぶりのような気がする。

「何をためらっているんだ」

自分にそう言い聞かせると、勇気を出して暖簾をくぐった。

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すると店主と思われる60代、いや70代だろうか。恰幅のよいおっちゃんが声を発した。

「飲み物何にします?」

その言葉は店内に入ってすぐだ。メニューを見る間もない。この店が新開地の常連さんの聖地ということはすぐに分かった。僕は心の中で決めていたビールを注文するとほっと胸を撫で下ろした。そしてそれまでの不安が一気に吹き飛んだ。それはカウンターの上に並んだ美味しそうな惣菜の数々だった。魚と野菜を中心とした惣菜は貝類まである。これはいい。僕はカウンターに惣菜が並ぶ酒場が好きだったが、東京でこういう酒場にはあまり縁がなかった。徐々に心が躍っていくのが自分でも分かった。

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この日は何となく大根を口にしたいと思っていたので、真っ先に目がいった「魚のアラと大根の煮付け」を注文した。その大根を箸でゆっくりと割って口へ運ぶと、味がたっぷりと染み込んだ大根に納得をした。そして魚のアラも大根同様に味がしっかりと染み込んでいる。あぁ、これはこの店に入って正解だとこの時確信した。

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ビールを次から次へと飲み干しながら注文した惣菜は「かぼちゃの煮つけ」だった。普段は酒のつまみとして選ばない料理だが、冬至が近いこともあってこの日は選んだ。料理は季節で選ぶのも楽しみのひとつだ。そのかぼちゃの味も文句のつけどころがなく美味い。

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「ブリの刺し身が入ったよ〜」

店主が切った刺し身を店員がすすめてくると思いきや、すすめてこなく冷蔵庫にしまう。その姿を見て思わず声が出てしまった。

「それ食べます!」
「これ寿司屋で食べると物凄く高いから」

そう言ったブリの刺し身は5切れ入って500円。噛むと口の中に広がるブリ特有な甘さに幸福感に浸った。

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すぐ側で食べる客のおばちゃんから聞こえた「これ美味いわぁ〜」という声につられて思わず注文したものもあった。それはあまり馴染みのない「ロマネスコ」だ。ロマネスコとはブロッコリーとカリフラワーを合わせた新種のブロッコリーで、その見た目はちょっとグロテスクだが、とても甘みがあって、美味しくいただけた一品だった。

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話しを惣菜から店内に移す。店内はボートレースの場外投票所が近くにあるため、テレビは常にレースの模様が流れ、配当の結果が壁に表示されている。そして天井の近くに貼られた1枚の紙に書かれた言葉に重みを感じる。

「負けて泣くならギャンブルするな。飲み代、電車代は残す事」

この店には数々のドラマがあったに違いない。そしてこの店の惣菜がとても美味しいことは分かったが、何よりも店主のおっちゃんの話しが面白かった。話しには常連やこの界隈の人たちが出てくるから、東京から来た一見の客には分からない内容のはずだが、それでも関西特有のトーク術で、ちゃんと話しのオチどころとツッコミがあって笑えるのである。僕の隣で酒を飲む小柄な男がこう口を開いた。

「このおっちゃん、おもろいよ。よお、見とき」

同じ関西人が言うのだから間違いないだろう。そして最後はカウンターで隣になった別のおっちゃんとなぜか電話番号を交換して店をあとにする。

「来年神戸来たら電話しい〜や。年金増えるからおごうたるわ」

いやはや、濃厚な時間を吉美屋世界長で過ごしてしまった。新開地酒場放浪はまだ一軒目である。次を目指して新開地のアーケードを歩いた。

吉美屋世界長
住所:兵庫県神戸市兵庫区新開地5-3-22
営業時間:開店は分からないが、閉店は20時

料金:瓶ビール 500円、酎ハイ 350円、魚のアラと大根の煮付け 300円、かぼちゃの煮付け 200円、ブリの刺し身 500円、ロマネスコ ?円

特徴:立ち飲みスタイルだが、腰が痛い人は折りたたみの椅子を使用、店主のおっちゃんが面白い、客は60代以上がメイン、カウンターの惣菜は2〜300円代、閉店時間が早いため昼間から飲むとちょうどいい

◇吉美屋世界長 新開地店の場所

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昼から飲める人気店「赤ひげ」

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昼間にアーケードを歩き店内を覗くと、奥行きのあるカウンターにぎっしりと並ぶ客を見てそそくさとあとにした大衆酒場があった。そこが本日2軒目の「赤ひげ」だ。店の前に行くとちょうど会計を済ませた客が出てきたので店の様子を伺うと、今ならカウンターが空いているよと話すので早速入店してみることにした。

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間口の狭い店内に入ると奥行きのある店内は、まるでうなぎの寝床のようだ。その両サイドに細長く造られたカウンターと、店の奥にはテーブル席も見える。僕は空いているカウンターに腰を下ろすと、壁に掲げられた数多くあるメニューを眺めた。

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お腹は吉美屋世界長で満たされたいたので、ここは胃に優しそうなおでんを注文することにした。おでんの具は、厚揚げ、牛すじ、大根の3種類を選んだ。そのおでんの料金は1個80円だから、コンビニのおでんより安い。そして味の方も文句はない。特におでんの具で最も大好きな大根は、柔らかくて味もしっかりと染み込んでいた。

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胃に優しく……なんて言いながら、酒を飲むとやっぱり揚げ物も食べたくなる。そこで選んだ品はカキフライだ。小ぶりな銀皿に盛られたカキフライは3つ。サクっとした食感に、ジューシーな牡蠣の味わい。そこにソースの味が口の中に広がった。これで料金は……忘れてしまった。どうやら昼間っから飲んだ酒の酔いがまわってきたようだ。

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瓶ビールを飲み干し、焼酎のお湯割りを飲んでいると、隣のおっちゃんと話しこんでしまった。おっちゃんの年齢は70代だろうか、小柄で童顔だがそのもっさりとした動きと喋りから、結構年齢を重ねているように見える。そのおっちゃんがゆっくりと椅子から立ち上がると、

「痔〜やねん。痛いねん」

椅子のある店内だったが、おっちゃんだけ立ち飲みになってしまった。そのおっちゃんの話しを聞いていると今の政治にとても不満があるようだったが、いくら飲んでも世の中は変わらない。酒は娯楽のひとつなのである。

それにしても、この赤ひげのメニューの安さには驚く。刺し身は安いもので百円代からあり、まさに千円でベロベロに酔える「せんべろ」の名に相応しい店だった。

赤ひげ
住所:兵庫県神戸市兵庫区新開地2-7-17
営業時間:11:00〜23:00

料金:おでん1個 80円、瓶ビール 450円、カキフライ ?円、焼酎お湯割り ?円

特徴:昼から飲める人気店、客層は60代以上がメイン、メニューが豊富すぎる、千円でベロベロに酔える、カウンターの店員は調理に忙しく会話を楽しむような感じではない 

  


◇赤ひげの場所

まとめ

今回初めて訪れた新開地にある2軒の大衆酒場だったが、安くて美味しい料理と酒に大変満足のいく酒場放浪となった。そしてローカル色の強い地元のおっちゃん達と話しができたのも旅の醍醐味だった。それにしても昼間から飲んだ酒は、5〜6時間が経過しただろうか。一見でぷらっと入った2店舗で、よくもまあこんなにも飲んだものだと自分でも呆れてしまうが、使ったお金は2軒で5千円もいかない。この辺りは自分で褒めてあげたいと思う。

*次回は新開地オヤジの寝床「Asahi カプセル&サウナ宿泊記」をお届けします 

 

>>>神戸の宿泊は新開地のカプセルホテル「Asahi カプセル&サウナ」
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おとなの神戸 (えるまがMOOK)

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ひとりで歩く神戸本

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