下川裕治さんの新刊『僕はこんな旅しかできない』を読んでみた話し

旅行作家の下川裕治さんの新刊『僕はこんな旅しかできない』を読んでみたので、その感想と紹介が今回の記事です。
アジア行ったり来たり 僕はこんな旅しかできない

アジア行ったり来たり 僕はこんな旅しかできない

 

発売されたのは2015年5月。下川さんのナムジャイブログ掲載「たそがれ色のオデッセイ」の連載に加筆、修正を加えた作品だ。ブログは2009年から連載が始まったので読んだ人も多いと思うが、執筆した当時を振返り「その後」として加筆があるので読み応えがある。

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まずこの作品を手にする前、表紙の写真に目が奪われる。それは何気ないアジアの街を歩く下川さん。表情はちっとも楽しそうではないのだが、そこが下川さんらしい。下川さんといえば、どうしてもアジアのイメージがある。そんなアジアを歩く下川さんの日常を捉えた写真は、多くの同行取材をしているカメラマンの阿部さんならではなワンショット。まさに「僕はこんな旅しかできない」雰囲気が出ている。

さて、作品の中身について触れてみたい。あまり紹介をしてしまうとネタバレになってしまうので、印象的な1点を僕自身の旅と重ね合わせて紹介したい。

 
僕は香港で解放された( P176〜178)
茶餐廳の朝の定番といえば、マカロニスープとパンである。このマカロニスープが、いったいどうしたものか……と天を仰ぐほどまずい。

 
僕は今年の秋、香港にいた。初めて訪れる香港だった。そこで出会ったのが下川さんの作中に出てくる茶餐廳(チャーチャンテン)だった。僕の記憶ではどこそこの美味しい店などは下川さんの作品では出てこない。逆にまずいと喜ぶ傾向にあるのは気のせいだろうか。ガイドブック代わりに全くならないのが下川さんの作品なのだ。それでもあえて行きたくなるのは、実際に自分で食べてみなければ分からないということだ。

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◇重慶マンションから近い茶餐廳。おそらく下川さんもここで食べているはず


入店したのは午前11時。お昼どきより少し前だが、多くの客で賑わっていた。僕は入り口近くの席へ座った。目の前では忙しそうに手が動く料理人の姿が見える。早速近くの店員に噂のマカロニスープを注文した。

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◇これが茶餐廳のマカロニスープ。刻んだハムとコーン。さらにレタスが入っている


注文から数分、下川さんが天を仰ぐほどまずいと評するマカロニスープがテーブルに運ばれてきた。僕は覚悟を決めて口にしてみた。ところがである。実際口にしたところ、想像よりまずくはないのだ。塩気が効いたスープと柔らかい歯ごたえのマカロニ。決してうまくはないが、まずくもないのが茶餐廳のマカロニスープというのが僕の感想だった。

帰国後、下川さんのトークショーが都内で開催された。僕はトークショーに出向き、本人にこの話しをさせてもらった。すると下川さんからこんな言葉がでた。

「あれ、あのあと反響があって、そんなにまずくないって言うんだよね」

人の味覚は人それぞれでアテにはならない。Webの飲食店レビューなどがいい例だ。しかし、このマカロニスープに関しては違うと感じていた。それは下川さんの言葉の影響力。あの下川さんにまずい、まずいと刷り込まれて、実際に食べたらそうでもなかった…という結論に至ったのだ。


しかし、帰国後改めて作品を読み返すとこんな文が目にとまった。
 

僕の好物はインスタントラーメンパンである。インスタントラーメンは、サンヨーのサッポロ一番塩ラーメンが望ましい。パンは買ってから2〜3日経ったものがいい。

 

正直「えっ〜?」という感じだ。茶餐廳でインスタントラーメンといえば、だいたいが出前一丁なんだとか。その出前一丁とトーストを一緒に食べるのが香港流らしい。日本でインスタントラーメンパンを食べることに気が引けていた下川さんは、堂々と食べる香港人を見て心を強くし、解放されたそうだ。

「僕の背後には香港人が控えている……」

 

インスタントラーメンは理解できなくもないが、2〜3日経ったパンとはどういうことだろうか。水分がとんでパンにスープがよく染み込むのだろうか。

最後に下川さんはこう締める。
こういうもの(マカロニスープ)を毎朝食べる香港人の味覚には一抹の不安があるのだが、彼らはインスタントラーメンパンも好物なのだ。
旅はするものだ。

 
僕は全く分からなくなった。果たしてあのマカロニスープはまずかったのだろうか。それともうまかったのだろうか。そして下川さんと香港人の味覚。これもわからなくなった。

あえてひとつわかることは、下川さんの最後の言葉。
「旅はするものだ」
これに尽きるような気がする。

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『僕はこんな旅しかできない』を読んだまとめ

僕は下川さんの飲食に関する話しは結構好きで、この作品のなかで出てくる中国東方航空の丸いパンとザーサイの話しは傑作だ。それはパン以外の食べ物がすべてお菓子なので、ザーサイとの食い合わせが悪く、仕方なくパンに挟んで食べたそうだ。普通なら頭を抱えるような話しだが、下川さんの手にかかると、楽しそうに筆をとる表情が浮かぶのだ。

一方で下川さんの作品を知らない人は、まずこの作品から読んでみると丁度いい。ブログの連載が始まったのが2009年なので、約6年間の下川さんの旅がダイジェストで味わえる。それと同時に変わりゆくアジアの物価や情勢など。

そして、
「下川さんって、どういう人なの?」
これも分かるような構成となっている。この作品はアジアの旅だけではなく、日本における下川さん自身のことも執筆している。

「僕はこんな旅しかできない」
と下川さんは言う。

僕が皆に下川さんを紹介するとしたら、この本を差し出してこういうだろう。
「こんな旅をするのが下川さんという人です」と。
アジア行ったり来たり 僕はこんな旅しかできない

アジア行ったり来たり 僕はこんな旅しかできない

 

 

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